平成24年度 東日本大震災による被害状況と労働者の疲労、抑うつに関する調査研究


主任研究者宮城産業保健総合支援センター所長嘉数 研二
共同研究者宮城産業保健総合支援センター産業保健相談員菊池 武剋
千葉 健
佐藤 祥子
宮城産業保健総合支援センターメンタルヘルス対策相談員鈴木 淳平
佐藤 宏平

研究1 事業所における震災後の被害状況と対応

1 目的

 震災後、企業が抱えた困難、震災対応や産業医の連携などを調査し、今後の防災・減災対策や産業医との連携について検討するため

 2 方法

  1. 調査対象
    宮城産業保健総合支援センター(以下「センター」という。)の登録事業所636か所
  2. 調査期間と方法
    平成24年7月から9 月までの間、質問紙と調査票の郵送
  3. 質問項目
    震災前の産業医等の状況、事業所と従業員の地震・津波被害状況、震災業務に関する産業医の協力状況、防災対策、震災後の心の健康問題・産業医の協力状況 等

3 結果

回答事業所296(回答率:46.5%)

A 事業所

 産業医、メンタル関係スタッフの心の健康問題への関与は、産業医は、問題時に関与149(50.3%)、普段から関与71(24.0%)。
 メンタル関係スタッフは、いる91(30.7%)で、その内訳は保健師・看護師41(35.7%)、産業医以外の精神科医・心療内科医と産業カウンセラーが各20(17.4%)、臨床心理士15(13.0%)。

B 震災の被害等

 地震津波による事業所と従業員の被害は、事業所では、地震で246(83.1%)事業所が全壊・大規模半壊・半壊・一部損壊、津波で全壊・大規模半壊・半壊・一部浸水49(16.6%)、従業員では、死亡・行方不明者有57(19.3%)、負傷者有15(5.1%)、震災での産業医の協力は、協力を求めなかった190(64.2%)、十分に得られた58(19.6%)等。

C 防災対策

 震災前の防災対策は、防災訓練・避難訓練、震災対応マニュアルの準備、防災対策の有効性は、まあ有効160(59.3%)、とても有効46(17.0%)等。

D 従業員

 震災後の心の問題は、震災前後とも休職者無155(52.4%)、変化無88(29.7%)、やや増加49(16.6%)、心の健康問題での産業医の協力は、必要性無125(42.2%)、十分得られた75(25.3%)等。

 4 考察

 

  1. 回答者の地域等
    地域による大きな偏りなく、業種も様々なところから回答。
  2. 震災前の産業保健スタッフの実態
    産業医の選任率は93.6%と高く、産業医が心の健康問題に関与する事業所も70%以上。
  3. 震災後の被害
    地震と津波の半壊以上の被害は、それぞれ約2割と1割強、従業員の死亡・行方不明は19.3%。
  4. 震災後1年間の震災対応業務、産業医との連携
    産業保健スタッフ自身に震災対応業務が多く、過重労働に。
    産業医に協力を求めなかったところが多く、震災時の産業医の有効活用が必要。
  5. 事業所の防災対策
    防災対策が有効が多数、あまり有効でなかったところも、この点に対する検討が必要。
  6. 従業員の震災後の心の健康状態
    心の健康は、問題有が正規従業員71(24.0%)、非正規従業員13(4.3%)、非正規従業員への対応が必要。
    産業医の協力は、事業所から協力を求めない傾向、震災時の産業医の活用は、今後の課題。

5 まとめ

心の健康問題は、地震津波の恐ろしい体験、家族の死・行方不明の喪失感、震災後の過重労働などが要因と推測。
これらは、正規従業員、非正規従業員に関係なく起こりうるもので、非正規従業員への対策が不十分。
防災対策は、暴風雨や火災、水害、地震を想定したマニュアルを作成していたが、大津波の対策マニュアルではなく、沿岸地域の対策は、立地条件を踏まえてのものが必要。

 研究2 被災体験様式および直近の勤務状況と18ヶ月〜21ヶ月後の抑うつとの関連

 1 目的

 従業員自身の被災体験および職場の被災体験と、震災の18ヶ月〜21ヶ月後の抑うつの程度との関連を検討するため

 2 方法

 

  1. 調査対象者
    センター登録事業所のうち、協力が得られた32事業所の従業員3311人
  2. 調査期間
    平成24年10月〜平成25年1月
  3. 質問項目
    性別、年齢、家族構成、住居形態、業種、勤労形態、本人・家族の被災体験、職場の被災体験、抑うつ尺度、疲労蓄積度
  4. 手続き
    質問紙と調査票の郵送

 3 結果

回答者2869人(回答率:86.7%)

1 対象者の属性、自宅および職場の被災状況
  • 対象者の属性
    7割が男性、3割が女性。家族構成は、単身者が1割弱。被災時の住居は、一戸建て6割強、アパート・マンション3割。
    職種は、事務職4割弱、専門技術職と管理職、各1割強。雇用形態は、正規従業員8割、非正規従業員2割。
  • 対象者の被災状況
    • 本人・家族および自宅・職場の被災状況
      本人の負傷22人(0.8%)、家族の死亡・行方不明25人(0.9%)、自宅の被害は、揺れ2368人(78.7%)、津波浸水309人(11.0%)、自宅の損壊程度は、全壊238人(8.4%)、大規模半壊172人(6.1%)、半壊292人(10.3%)、職場の被害は、揺れ2284人(73%)、津波浸水598人(19%)、職場の被害程度は、全壊147人(5.4%)、大規模半壊262人(9.7%)、半壊186人(6.9%)等。
    • 職場の被災後の状況
      業務再開までの期間は、被災時企業消滅14人(0.5%)、現在も休業中5人(0.2%)、再開まで長時間943人(34.0%)、職場の変動は、転職24人(0.9%)、企業内で雇用形態変更55人(2.0%)、配置転換107人(3.8%)等。
2 抑うつ得点の比較分析
  • 対象者の属性
    抑うつは、男性に比べ女性が高く、60代に比べ20代、30代、40代が高い。
    家族有に比べ単身が高く、正規管理職が他の雇用形態より低い。
  • 震災体験様式
    死別家族有、津波浸水被害有、全壊と半壊、修繕有が、他のものに比べ、抑うつが高い。
  • 職場の被災体験様式
    津波浸水被害有、休業期間有、賃金減少が、他のものに比べ、抑うつが高い。
3 疲労蓄積と抑うつの関連

有意に自覚症状や勤務状況が高いのは男性の30代、40代であり、勤務条件が他より悪い。女性では、差を認めない。

4 震災体験様式と現在の勤務状況に関する各変数が疲労蓄積および抑うつに及ぼす影響に関する検討

(各変数:性別、年齢、単身・家族、自宅の損壊程度、賃金増減、将来の景気見通し、勤務状況 等)

  • 疲労蓄積に及ぼす影響
    特に高い正の影響は、標準偏回帰係数が.42の「現在の勤務状況」、「自宅の損壊程度」も同係数が.12で正の影響。
  • 抑うつに及ぼす影響
    「現在の勤務状況」の同係数が.31、「自宅の損壊程度」は.11で、正の影響。

 4 考察とまとめ

4 考察とまとめ抑うつの関連が示唆される要因は、
個人的な被災体験では、(1)家族の喪失体験、(2)自宅の津波浸水被害、(3)自宅の損壊、(4)住居の修繕
職場の要因では、(1)職場の津波浸水被害、(2)休業期間有無、(3)賃金変動。
これら要因のある従業員への職場内外での物的、心理的支援が重要。また、疲労蓄積度チェックリストによる自覚症状や職場の状況は、抑うつとかなり高い相関関係があり、過重労働面談の際、精神疾患の発現も念頭に入れた質問や教育が有効。今後も企業が過重労働を把握することは重要。

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